「チベット高原万華鏡」は、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわる情報を共有し、チベット高原の地図にプロットする仕組みです。民族誌や旅行記、史資料など、バラバラに存在していたデータを地理空間情報と結びつけて可視化することで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
チベット高原では、有史以前から西アジア、中央アジア、北アジア、東アジア、南アジアといった周辺の地域の影響を受けつつ、冷涼な高地乾燥地帯という特有の環境に適応した牧畜や農耕が行われ、そこで生産される資源の利用が行われてきました。ですから、チベット高原における生業活動や生業文化を理解するには、地理的環境や周辺との交流の状況をふまえて、地域間比較をすることがたいへん重要です。
ところが、多地点の生業活動や生業文化の記録は、様々な媒体に散在しており、様々な言語で記録されています。ですから、それらを集めてきて、翻訳したりすること自体、手間のかかる作業です。しかもせっかく苦労して集めたデータも、個人で使うだけでは、いずれ死蔵されてしまいます。
そこで、私たちは、古今の記録から、チベット高原の牧畜や農耕にかかわる知識を抽出し、それらを共有できる仕組みを作ろうと考えました。外国語の資料もいったん日本語に翻訳して、多種多様なデータを共有することの障壁を少しでも減らしたら、同じデータをもとに実り多い議論ができるのではないかと考えたのです。
そこで考案したのがこの「チベット高原万華鏡」です。
過去のフィールド調査の記録や、旅行記、滞在記、地誌、辞書、歴史史料、文学作品などから生業資源やその加工プロセスに関するデータを抽出し、英語やチベット語、中国語のデータは日本語に翻訳し、地理情報と紐づけて、データベースに登録しています。それらのデータを呼び出し、緯度経度情報をキーとしてOpenStreetMap上に展開し、地図上にプロットして見せているのがチベット高原万華鏡になります。
毛・皮・乳・糞・肉の五大資源および食文化から絞り込むこともできますし、また、フリーワード検索で絞り込むこともできます。
なお、文献に記された記録からは詳細な地理情報を得られないことは多いので、行政区分でいうところの県レベルまで特定できた場合は、該当する県の中央部にプロットすることで済ませています。ですから、正確な地点ではないことをご理解ください。
また、現時点では記録年代が提示できていません。この点については追って対応していきたいと考えています。
地図上に示された多様な生業文化のあり方を見ていくことで、これまでに思いつかなかったような発想が出てくることを願っています。
データを共有することは知識と経験の共有につながります。そこには他者とわかちあうことでしか得られない喜びと発見があります。ご利用いただいた方の中で、データの提供をしてもよいという方は、いつでも声をかけてください。プロジェクトの趣旨や考え方にご賛同いただける方を歓迎いたします。
なお、本データベースでは写真を参照できるシステムも構築中です。諸般の事情から一般公開はしておりませんが、研究のために利用したい方には、ご相談いただければ個別に対応いたします。
チベット高原万華鏡は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)およびTUFSフィールドサイエンスコモンズのもとで実施されている、チベット・ヒマラヤ生業文化資源地図化プロジェクト(Tibetan and Himalayan Cultural Asset Mapping Project with Special Focus on Subsistence Activities, THCAMP, ティーエイチ・キャンプ) の研究成果の一部です。
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