「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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(ラダック隣接のルトウという国の僧侶の商隊の)一隊はカシミール地方の産物の乾桃、乾葡萄及び絹物あるいは毛織物類をラサ府に持って行き、そうしてラサ府から茶、仏像、仏画の類を買って来るためのりょこうなのでした……。
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「ドンヤク」とて山ヤクという非常に恐ろしいもので大きさは通常のヤクの二倍半あるいは三倍、……私はその後その舌の乾かしたのを見ましたがその舌の乾いたので馬の毛をこするブラシにして居たです。
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山の麓の三軒家に着きました。ところがその三軒家の軒を見ますと大変です。沢山な羊を殺して皮を剥いたその身体が幾十となく掛かって居ります。で、そこでまたヤクを殺して居るです。……しかし自分の部落とかあるいはテントの辺で殺してはよくないというのでわざわざこの三軒家まで連れて来てこの近辺の住民が殺すのだろうです。一人一軒の分を殺すのでなく一村のを集めてそこで殺して居るのです。
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(屠畜のために四足を縛ったヤクの)そこへ坊さんがお経を手に持って出て来て何か口の内で唱えながらお経と数珠をヤクの頭に載せて引導を渡すです。こうすればヤクが死んでからも生れる所に生れられるからまあ殺した罪はあってもヤクの怨みを受ける気遣いはないという考えなんだそうです。
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(ヤクを屠畜すると)血がたくさんに流れ出しますがその血をなるべく外に溢さないように桶のようなものに取って居るです。で、その血はよく煮固めて羊羹のような物を拵える。それがまた大層うまいそうです。
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一体田畑があればそれに政府から地租を課さねばならん。……ヤク二疋に鋤を引っ張らしてその田地を鋤かして見るです。で半日掛かるとこれがヤク二疋で鋤いて半日掛かった田地の大きさというのでそれだけの租税が極まり、一日掛ると一日の田地ということで政府はそれを標準として税品を取り立てるのです。
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修験者は一番そのチベットでの高い山の上に建ててある防霰堂へ出掛けて行くです。……この修験者がうまくやってもやらいでも、その年霰が降らなかったかあるいは降りかかってもうまく留めたというような時分には充分の収入がございますので、それは毎年きまった税品を取るんです。チベットにおいてはこれを名づけて防霰税という。
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ヤクの皮でこしらえた船があるんです。余程妙なもので、ヤク三疋の皮を集めて其皮を縫い合せ、その縫い目に水の浸み込まない物(ように漆)を塗り付けて水に浮かべます……。もちろん皮の事でございますから湿気がひどくなりますと柔らかになって重くなる。だから半日位水に漬けて置くとまたじきに上に引き上げて日光に乾かしますので、その船は一人で背負って行くことが出来る。
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(上等バタ茶の製法)まず其茶を半日も煎てその滓をよく取って、そうして真っ黒な少し赤味がかった汁になって居る中にヤクのごく新鮮なバタを入れ、例のごとく塩を入れて筒の中で二度くらい摩擦したのがごく上等の茶である。
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上等の僧侶は毎朝その(上等なバター)茶でもって上等の麦焦しを捏ねて、その中にツーというものを入れます。このツーというのは乾酪とバタと白砂糖とを固めて日本の擬製豆腐のように出来て居るものです。それを入れてうまく捏ねてそうして其塊を右の手でよく握り固めて喰います。
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英領インドの方へ輸出する品物は羊毛がおもで、次が麝香、ヤクの尾、毛皮、獣皮位のもので、なお細かな物は少し位ずつ出るです。
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ヤクの尾で拵えたところの紐で山間の草の生い繁って居るところに罠を拵えて置く。すると麝鹿が草を喰いに来てその罠にかかり、大いに苦しんで声を挙げて鳴き出すと、そこへ先生やっていって殺してしまう。そういう方法で沢山取るのです。
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シナ輸出するものの中で一番立派なのはシャー・イ・タクラー即ち宝鹿の血角であります。この血角はシナでは身体を壮健にして寿命を長くし、なお顔の艶をよくする利目があるというので、いわゆるシナの仙薬を拵えるためにチベットから沢山買い出して行くです。
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この血の角(宝鹿の血角)は毎年陰暦正月からして新芽を出すのです。その新芽の外部は一面に毛の皮で被われて居って中は全く地で骨も何もない。その芽が月々成長して三、四月頃になると一つ位枝が生えるです。……最も大なる宝鹿の角はその長さが一丈二尺程ある。
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ネパールへ輸出する品は羊毛、ヤクの尾、塩、硝石、羊毛布等の種類です。西北方のシナ地方及びモンゴリヤ地方へ輸出するものは多く羊毛布の種類である。その種類はナンプ(羊毛製の下等厚地布)。プーツク(羊毛製上等繻珍ようの物)。チンマ(中等羊毛厚地布)。チンチー(中等薄地羊毛布)。デーマ(縦織羊毛薄布)。コンボチェリー(渦巻羊毛布)。ツクツク(羊毛擬いの段通)等で、その他モンゴリヤへの輸出品中最大部分を占めて居るものは経典である。
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百姓でも商売をするかといえばやはりします。夏の間は百姓をして居ますけれども、冬は別段用事がないから北方の沼塩地へ塩を買いに行って、それでその塩をまた南方のネパール地方あるいはブータン、シッキムの方へ売りに出かけるんです。
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第一婦女子は乳を煮てバタや何かを製します。その製し方は、煮た乳をよい頃に冷ますとその上にクリームが出来る。そのクリームを取除けてしまってその中へ酸乳を入れて蓋をして一日も寝かして置くとショー(酸乳)即ち固まった豆腐のようなものになってしまう。その酸乳を長い桶の内に入れその上へ少しばかり微温湯を入れて、そうして棒の先に円い蓋の付いたもので上げたり下げたりして充分摩擦すると、だんだんバターとタラーとが分かれて行く。
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生れてから日に二度ずつは身体の各部ことに頭へ余計バタを塗り付ける。それがバタで沐浴するというてもよい位です。
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ヤクの生皮を三枚ばかり買って来ました。……その血のついてある皮で箱を包むのですが……内皮を外にし毛のついてある方を内にしてうまく縫付けた。それが干固まると板のように張り切ってしまうから、実に堅固な荷造りが出来るです。
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夫と妻とが財産に関してはほとんど関係がないというのが、原則的にタングート族の家族生活、一般にすべてのチベット種族に共通する風習である。妻はもっぱら彼女のものである家政のすべてを切り盛りしなければならない。夫の所有物は馬と鉄砲と刀、槍、つまり略奪に出かける際の武器だけにすぎない。