「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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また、地域によってはティリル (spri ril) という、調理用具が何もない山で仔ヤクが生まれたらすぐに家畜追いが母畜から初乳を搾り、それを仔ヤクの入っていた羊膜の中に注いで小さな包みにしたら、煙の出なくなった柔らかい熾き火の中に置いてよく焼いたものをいただく。また、羊膜の中に包んだ初乳を鍋に沸かした湯の中でゆでていただくこともある。
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また、一部地域では初乳パンといって、初乳に小麦粉を加えてよく練ったものを焼いた、色は茶色がかった黄色の、とてもおいしいパンを作ることもある。カム地方の一部地域ではティゴルと呼ばれるが、同じもののようである。
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オンタク ('o 'thag) とは、乳を鉄鍋でも土鍋でも何でもとにかく厚手の鍋に入れ、乳をかき混ぜながら固まりすぎないよう、焦げないように気をつけて加熱を続け、固まってきたら火から下ろし、丸形や平たい四角などに成形したものである。
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ティマ (spris ma) とは、乳を沸かし、火から下ろしたら酸乳作りをする決まった場所、例えばレンガで作った棚や石造の台?などに10分ほど置いて冷ました後、浮き上がってくるクリームのことをいう。牧畜民の食べ物の中で最も優れたものとされる食べ物であるだけでなく、味と栄養価がともに優れており、他の食べ物と混ぜて食べてもよく、単独で食べても美味という特徴を持った食品である。
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クリームができたらミルク用漉し器または乳加工用の道具で濾して、容器に保管し、取り出したクリームがある程度溜まったら、火にかけて溶かし、不純物を取り除き、保存しておく。旅に出た際や、乳製品の少ない春に重宝する。夏に毎日ミルクを沸かしてできたクリームと一緒にして溜めておき、容器が一杯になったら、パンや煎り穀物と一緒に食べる。また、旅に出る際の食糧として用いられるなど、広い用途で使われている。
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地域によっては乳の表面に浮上したクリームを鍋蓋やまな板の上に薄く延ばして乾燥させ、宴席のときに重ねて供することもある。
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クリーム加工は、ナクチュの西部およびンガリ地区で盛んで、どこでも作られている乳製品であるが、ナクチュの東部の牧畜地区の大半では乳を沸かさずに攪拌してバターを取り出す習慣があり、酸乳が必要な場合には乳を沸かして、冷めたらすぐにクリームを取り出すことなく酸乳を作るので、クリームを楽しむ習慣はない。だから酸乳の上にはクリームがたっぷりとできている。酸乳の表面にできたクリーム (zho'i kha spris) という言葉がある。一方の、ナクチュ西部の牧畜民たちはクリームを取ってしまうので、酸乳の上には薄いクリームの膜しかできないのである。
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ソシェ (zo she) とは搾乳桶で何回も乳搾りをしたものからできたものという意味であり、ソモ (zo mo) は栄養価が高いけれども脂肪分がさほどなく、特別な味の、食欲をそそる乳製品であり
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(ソシェ、ソモの)作り方はだいたい同じで、キンロバイやヤナギ、phang maの枝の皮を剥くと、柔らかくて白く、よくしなるものであれば、その土地の植生にあったものであればなんでもよいのだが、それを切ってきて、火で炙り、少し熱くなったところで皮を剥き、手の形のように毛羽だつように剥けたら、それらをお湯の中に何度か浸してよく洗い、木の匂いがしなくなるまできれいにする。それから桶や土鍋などの中に丸くしならせておくか、左右に広げて乾かし、搾乳桶の中に入れやすいように準備しておく。
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(ソシェ、ソモの作り方)その後、必要になった時点で、その皮を剥き広げた枝を桶の中に敷き詰め、数日間その桶で搾乳を続けるか、そうでなければ昼間、乳を入れておくところに数日間置いておく。すると枝に付着物が溜まってくるのでそれが指二本分の厚さまで蓄積したことが確認できたら、手をよく洗って別の容器に取り出し、加熱して溶かし、濾したものを山羊や羊の第一胃に入れ、テントのロープや、東西二本の柱の間に掛かったロープに吊るして乾燥させる。
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(ソシェ、ソモは)旅に持っていく食糧として、また宴席で出す食品としても活用するだけでなく、栄養価があり、消化が良いため、産後の体力回復のために供されることもある重要な食品である。(中略)地域によっては、トゥクパの味付けや、お茶の味付けに使うこともある。
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さらに別の種類の酸乳(ヨーグルト)がある。牧畜地区のごく一部で、乳を攪拌してバターを取り出した後、残った乳(バターミルク)に種 (ru ma) を入れて発酵させる習慣がある。この酸乳をショシャン (zho bshangs) と言い、質の低いものと見なされている。脂肪分が少なく、味も劣るということである。
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季節の移り変わりに従って移動する牧畜民たちは、夏は白いものを食べ、白いものを飲む(カルサ・カルトゥン)、冬は赤いものを食べ、赤いものを飲む(マルサ・マルトゥン)という。白いものを食べ、白いものを飲むといったときの白いものの中心は酸乳(ヨーグルト)を措いて他に何があろうか。
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(おいしい酸乳、ヨーグルトを作るには)搾乳後あまり間を置かずに沸かす必要がある。夏のように天候が暖かいときに乳を沸かさずにしばらく放置すると、乳がダメになる[乳が切れる] (zho chad pa) と言って、乳酸発酵が進みすぎてしまい、もろもろとした塊ができてしまう。そうなるともう酸乳を作ることはできない。
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まず乳を適温で発酵させ、適度な濃さになり、よいクリームの?(dwangs spris bzang ba)、汚れの全くない酸乳ができたら、それを攪乳器 (zho mdong) または家畜の第一胃 (grod pu) または1頭分を使った革袋 (rkyal ba)などを、経済状況や酸乳の多少に合わせた容器に注いで、 攪拌・振盪を行う。
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攪拌の仕方については、攪乳器であれば、容器の半分より少し上くらいまで酸乳(発酵乳、原文はzho)を入れ、攪乳器の上に真っ白な布をかぶせてから、両手で(攪乳棒を)上下にゆっくりと動かして攪拌を行う。
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地域によっては、酸乳(または発酵乳)の濃度が薄い方が攪拌しやすいという理由で、酸乳に生乳を混ぜて攪拌するところもある。
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おおよそ30分ほど、回数にして300回前後攪拌する必要があり、これを非加温攪拌?(grang dkrog 「冷+攪拌」)という。
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彼らは食用に牛(ヤク)を屠畜する際に、目が飛び出て窒息するまで鼻と口を革紐できつく縛るという珍しい方法を取る。このプロセスには30分ほどかかる。
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女性はヤクがミルクを出さないと分かると、性器(肛門?)に口を当てて息を吹き込み、家畜の胃袋を膨らませてミルクを出させようとする。この慣習は、全チベットで見られるが、チューブを使う地域もある。
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