「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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母ゴクサは不思議に思い、この世の人間に人でなく(mi mi gtogs)胃袋包み(grod 'thum)(のような)袋が生まれるはずがない。これはおかしいなと思ってその袋をあっちへ転がしこっちへ転がししてみたところ、鉄の弓矢を携えた男性のかまど神、ダワ・サンボが、燃えさかる宝のかまどからぬっと立ち上がり、「母ゴクサよ、恐れることはない」と言って、鋭い矢でもって袋を切り裂いたところ、玻璃より清らかな男児が産まれたのである。
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魔女ラワ・ラトゥクの思うに、隣の男児は他の子どもとは様子が違う。小さいうちに処分してしまわないとまずいことになると思い、柄杓一杯分のツァンパにウサギのバター(ri bong gi mar)を少々とトリカブト(btsan dug)の毒を9種混ぜて、自分の息子に「あんたはここにいなさい。あたしはゴクサの赤ん坊にツァムマル(tsam mar)を渡しに行ってくるから」と言うと
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息子(チョル)が「ツァムマルを食べても大丈夫かどうか、かまどの上に置いて」と言うので、母(ゴクサ)がかまどの上に置いたところ、その瞬間、かまど石(thab rdo)が浮き上がって九つに割れた。かまどの神ダワ・サンボが石(ger rdo)の上に再び立ち現れ、母ゴクサにこんな歌を歌った。
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584
「私はかまどの神、ダワ・サンボなり。神の子とともに生まれし者なり。ポラ神(pho lha)とダラ神(dgra lha)とウェルマ(wer ma)ら、神々の宿ったかまど神なり。この歌を知らないならば(教えて進ぜよう)、かまどの神を呼ぶ歌なり」
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(バターミルク酸乳zho bshagnsについて)この酸乳の他の呼称として、ショゲン(zho ngan)、ショキャ(zho skya)がある。ナクチュの西側の地区ではこれは作らない。
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カード(la bo)とホエー(phyur khu)を一緒にした状態でそのまま食べてもよい。酸味が少々あり、味が非常によい。とりわけ冬のヤク乳のカードは格別な味で、健康にもよい、牧畜民の最高の食べ物である。
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結婚式のお祝いの際に、門前で三人の娘がミルク水('o chu)またはバターミルク水(dar chu)を持っているのもまた、けがれや不浄を落とすことと関係があるのは言うまでもない。バターミルクは、ラマによる加持(水)やサフラン(水)など、他の清めの水とは異なる、牧畜民独自の清めの水と見なすことができるものである。
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(ホエーチーズである)skya phyurと'thag phyurの二つは火にかける時間の長さの相違だけで、基本は同じものである。
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(ホエーチーズについて)レティン付近など、一部地域では煮詰めチーズ(gdus phyur) と呼ばれる。というのも、ホエーを長時間煮詰めて作るチーズだからこのように呼ばれるのである。
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(チーズの一種である)ゴカルとは、前述の通りバターミルクを沸かして凝乳とホエーに分離したあと、さらにもう一度しばらく沸かし、布で濾した凝乳を乾かすときに、細粒にすることなく、自然に細かくなるのにまかせたもののことをゴカルという。
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(チーズの一種)オチュル。生乳を沸かして作る、甘味の強いチーズで、これも一部の牧畜地区で作られる。これは主に秋に、雌羊の乳が出なくなりかかるころの乳で作られる。先述のンゴチュル(sngo phyur)と作り方は根本的に同じだが、季節の違い以外に、乳脂肪分の含有率が異なるので、味も固さも大きく異なる。
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(チーズの一種である)ゴグン。ホエーを煮詰めて作ったホエーチーズのことを言う。
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冬チーズ(トゥルチュル)。一部地域ではゴシュ(mgo zhu)とも言う。ナクチュの西側の牧畜民たちは冬になるとチーズ(phyur ba)を毛織布の袋に入れて凍結乾燥させる。すると自然にツァンパのように白い細粒になる。トゥルチュル('thul phyur)とも呼ばれるが、凍結乾燥させる段階で、自然に細かくぽろぽろになるのでそのように言うのである。このチーズはバター菓子トゥル(thud)の最良の材料である。そういうわけで、バター菓子トゥルが普及しているチャンタンの牧畜民の間でよく知られているのである。
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(手延べチーズ、ララの作り方について)まずナクチュ中央部と東部の牧畜民が、夕方の搾乳(mtshan 'jo)という夕暮れに搾乳したヤク乳を適温の場所に安置して翌日の夜頃あるいはそれより少し早い時間帯に、少し表面が変化し、少し酸味が出てきたら、ゆっくりと攪拌して、表面に変化が見られたら、手で引っ張ることができるまでになる。生地を練るように(sbrang shad rgyag pa ltar)伸ばしてから乾燥させる。そのとき、水分を取り除くとおいしく、適度に甘酸っぱいララができ上がる。
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(手延べチーズの)もう1つの作り方は、生乳にバターミルクを適量入れてゆっくりと攪拌して作る。この作り方では、バターミルクを混ぜるときに(やり方次第では)質が悪くなりかねない。特にバターミルクが多すぎると酸味が強く出てしまい、食べたときに酸味のせいで味が悪くなりかねない。一方、バターミルクが少なすぎたら、ララを作るのに必要な滑らかさを出すことや手で引っ張ることが難しくなってしまうのである。
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夏の暑いときにカード(凝乳)をわざと腐敗させて(rul du bcug nas)小麦粉と混ぜて乾燥させたものを腐れチーズ(phyur rul)という。
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キュルロクというチーズ(のつくり方は以下の通りである。まず)バターを取ったあとのバターミルクを沸かし、熱くなったら酸乳を添加し、バターミルクの酸性化が進んだら、手をきれいに洗い、チーズの塊?(phyur phram)をdkrogしたりbrtsiしたり、伸ばしたりして、パン生地のように捏ねたりひねったりする。(それから)長い糸をぐるぐる巻きにするように(生地を)引っ張って丸めたものを、ホエーの中に戻し、ヨーグルトを寝かせる要領で一晩置いたら完成である。
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アピン(a ping)の作り方は前述の(キュルロクの作り方と)おおよそ同じだが、あまりしっかりと捏ねずにパンのように成形して作る。これはホエーに戻して発酵させることをしないので、さほど酸味がない。切って生のまま食べてもよいし、溶かしバターに入れて食べてもよい。
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干しプンテュー(bon thud skam po)というチーズは、バターミルクを沸かし、手で成形するやり方はアピン(a ping)と同じで、形はパンに似て、指二本分ほどの厚さのものをたくさん作り、かまどの煙の出るあたりで乾燥させたもの。お茶に浸したり、細かく割って火で温めて食べることもある。
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プンテュー(bon thud rlon pa)を乾燥させずに長期保存する方法としては、上述の方法でできたてのプンテューを清潔な素焼きの壺や木の桶などに溜めて、味を長期間保つために酸乳とホエーを注ぐ。風に当たると腐ってしまうため、ホエーで練った小麦粉で密閉の上、日にも風にも当たらない場所に保管する。冬や春などの乳製品が少なくなる時期にとりだして食べると、できたてのプンテューとほぼ同じような味を楽しむことができる。注意すべきことは、取り出したあとは再度よく密閉しなければならないということである。空気に触れると容易に腐ってしまう。
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