「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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牛糞で火を焚き、(牛糞以外の)糞をくべて香を焚いた。
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息子(のチョル)がかまどで火を起こして薪を取りに行くとき、母のゴクサが腰をかがめて火を焚きつけようとしたので、息子が急いで戻ってきて、「母さん、火のお守りはしなくていいですから。母さんがそんなことしたら、子どもが親を手伝う機会を奪うようなものです」と言って、息子が火を焚いて熱々のトゥクパを作った。母が息子を抱っこしたまま、トゥクパを少し食べていると……
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胃袋包バターオイル(ソモ)と胃袋包バターオイル(ティマ)の両者は見た目は非常によく似ているが、食べると味の違いは大きい。
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テントの下端は鉄の杭か動物の角で押さえる。
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時々、放牧しているヤクに紙が結ばれているのを見かける。それにはヤクの所有者の守護神への祈りが書かれている。
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燃料用に牛糞や羊糞を集めるのは、あらゆる収穫の中で最も継続的に行われるもので、日々の必要に合わせて行われる日常の家事である。たまにはは、ギョリュウやスナジグミ、矮性のヤナギ、ゲッケイジュ、ビャクシンといった灌木の生えているあたりにテントを張ることがあるが、灌木として使うには異なった配置のかまどを必要とするため、そうした場合でも緊急時以外はめったに用いることはない。質の良い泥炭層もあるが、燃料として用いるのはタブーとされている。というのも、土地神や「土の主」が刺激的な煙に憤慨するからである。
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この糞を集めるという段階はもっばら女性の役割であるが、冬の三か月間に大量に集める場面では男性が補助するか、男性が集める。とりわけ、常に換金作物として需要のある近隣の僧院への販売用に集めて袋詰めする場合は男性が担当する。
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ラダックやトルキスタンの道での主な燃料であるBoortsa(Eurotia)はまだ豊富にあったが、先に進むとそれもなくなり、調達できる燃料はargols(野生のヤクの糞)だけになった。
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(ヨーグルト作りについて)乳('o ma)が急速に冷めることのないように、様々な衣類で包む必要がある。3時間ほど経ったら衣類を取り去って涼しいところに置く。このときヨーグルト(zho)をとり出した場合、味は非常にマイルドなものである。乳('o ma)を保温している時間が長くなると、ヨーグルトの酸味が強くなる。それゆえ、ヨーグルト(zho)の甘味(mngar)と酸味(skyur)は各自好みで調節して発酵させるとよい。
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牧畜地域では子どもがヤクの出産を目にした場合、その子に出産祝いの初乳(be'u spri)として、甘い初乳を似て与える習慣がある。
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色とりどりの花、青々した(草原の)草、しなやかに揺れる緑の作物も目にすることができないのであれば
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「ハイタカ、ワシ、オオカミの三種(khra glag spyang gsum)」とは、猛禽類のハイタカ、ワシ、および肉食獣のオオカミの三者を指す。(『ケサル王物語』における)リン国のケサル王の13柱の守護神(dgra lha wer ma)のうちの主立った三者であるのと同様に、普段男性が戦や商売などのために遠方へ出かける際、これらの三種の生き物と出会った場合、守護神が援軍に来てくれた印と考えて、目的が成就する縁起の良い現れと見なされる。
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ラキャプにとっては初めてのことだったが、上座に吊るされた焚き上げ用の皿に火をともし、一握りのお香を焚べた。青い煙がもくもくと立ち上り、テントの煙穴から空へと上がっていくのを見つめていた。
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丑の年になり、ツェンポは夏の宮であるメト・ゼンタンに滞在された。ボンタギェルと大臣のティズィクが夏の会議????を集めて、五百を任命した。草の生い茂る土地、草の枯れた土地?(sngo sa skya sa)、向かい合った中国の使節もまた恭しく敬礼した。冬はタクマルに滞在された。#色彩語彙
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空の雲の色味で言い分ける(方法として?)、天で雲が白ければ地では馬の毛が白い。天で雲が黒ければ地では馬の毛は黒い。天で雲が紫であれば地では馬の毛は紫(濃茶色)。天で雲が青ければ地では馬の毛は青(灰色)、天で雲が黄色ければ地では馬の毛は黄(亜麻色)。
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使節が答えていわく「われわれが下ツァンのとば口からこちらに向かっていると、人跡を見誤り?、山谷は険しく?、川や泥地は大きく広がり、人と出会うといえば、毛髪は土色、目は黄色、声はしわがれ、手足?はよろよろしたものと出会い、誰の(配下の)者かとわれわれに尋ねてきたのです」
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ヤクの総称はヤ(ya)である。ヤはオスヤクをさすときにももちいられるが、種オスはポアとよぶ。ポアは、位置世帯の所有するヤク群の中で一〜二頭みられるだけである。成メスとの比率は、一対二〇前後がおおい。
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搾乳中のメス(成メス)のヤクは、ジとよぶ。これは、メスヤク全般をさすときにもつかわれる。哺乳中の子ヤクをイティとよぶ。イティには、雌雄の別はない。性的な成熟に達していない子ヤクは、雌雄の別なくビユとよぶ。
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去勢ヤクの名称は、ケである。去勢ヤクは、ほとんど荷役用につかわれる。去勢ヤクが、一世帯のヤク群にしめる割合は、五分の一から三分の一のあいだである。ヤクの去勢は、四歳時の春におこなう。去勢にあたっては、小刀で陰嚢に切れ目をいれ、睾丸を手でおしだしてきりおとす方法をとっている。この去勢法は、ヤク以外の家畜にも共通して適用される。