チベット高原万華鏡 生業文化の古今の記録を地図化する モザイク柄のヘッダ画像

チベット高原万華鏡テキストDB

「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。

なお、本DBは進行中のプロジェクトであり、引用や翻訳に間違いが含まれている可能性があることにご留意ください。ご利用される場合は、必ず原典を確認してご利用いただければ幸いです。問題があれば、 「チベット高原万華鏡」とはに示したお問い合わせ先にご連絡いただければ幸いです。また、論文、著書などで利用される場合は、本DBを利用したことに言及いただければ幸いです。

「チベット高原万華鏡テキストDB」の使い方
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家畜の名称
ヒツジの総称は、ル(lu)である。種オスはルブザンとよぶ。種オスの数は、群れのなかで一〜三頭くらいである。成メスとの比率は、一対一〇から一対三〇くらいのあいだになる。搾乳中のメス(成メス)は、マモという。群れ全体の三分の一前後をしめることがおおい。
642
家畜の名称
哺乳中の子ヒツジはルグ、去勢ヒツジはプルという。去勢は、うまれた翌年の春におこなう。子ヒツジの出産は、ほとんど冬である。ヤギの去勢も、ヒツジとほぼ同時期だ。
643
家畜の名称
ヤギの総称は、ラ(ra)である。種オスはラトゥ、成メスはラマという。この両者の比率は、一対一〇前後のことがおおい。ヤギの棟数がほかの家畜にくらべてすくないため、種オスの比率がたかくなっている。去勢ヤギはルラという。
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家畜の個体管理
(冬の時期は)また、近くの草地の草は家畜が食べ尽くしているので、雌牛などの大型の家畜の類いは山に放牧には行かせずに家につないでおいて、秋の終わりに保管しておいた枯れ草や青草を与えているので、普段は山に行く仕事もないのである。
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植物と動物
不思議なことに、ナキウサギが棲むところにはアタカユ (a ta ga yu)という白い鳥がいる。この鳥は、嘴が黒く、足が白黒 (skya nag)?で、大きさはカナリヤよりも少し大きい。何千羽ものこの鳥が、あちこちでナキウサギと共生している。彼らもまたナキウサギと同じように地中に巣穴があり、卵も地中の奥に置いている。普段、この鳥が穴から外に出てくると、ナキウサギの背中に乗って移動するが、ナキウサギが巣穴に戻ってしまうと、鳥たちは地面に倒れてしまうという、たいへん滑稽な光景が見られる。
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植物と動物
高原の船(gru gzings)としてその名声を世界にとどろかせているヤクの、喉の渇きを癒やすのは冷たい雪解け水、食餌としては夏には草原の青い草や薬草、冬には枯れ草であり、生活の舞台は高く清らかな土地の特徴を3つを具えている。そこから得られる乳もまた、他の家畜の乳と比べると、栄養価もミネラル分も倍高いのである。
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植物と動物
叙述の通り、(飼料の)草は畑仕事から得られたものであり、それも秋の収穫期に脱穀を済ませ、穂についた穀物を取ったあと、白枯れとなった草(rtswa skya)を飼料小屋(rtswa khang)に入れてよく保管し、それを冬や春(の草のない時期)に初めて取り出して、家畜に与えることになる。
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家畜の名称
ウマの総称はタ(ta)である。種オスはタス、タポ(オスウマの異)などという。メスウマはゴマ、子ウマはティグとよぶ。騎乗用には去勢ウマとメス馬をつかうことがおおい。
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冠婚葬祭
野辺送りから戻ってきた男性たちは直接自宅に戻らずに、必ず死者の自宅に赴いて、白い石と黒い石の上に白い水と黒い水というものを掛けて、手を洗い、火にくべたビャクシンの葉の煙の上をまたいでお清めをしなければならない。
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搾乳と乳加工
世帯単位の牧畜経営においては、ほとんど家族の全員が放牧に従事している。放牧の仕事にでかけないのは、ながい道のりをあるくことのできないおさない子どもくらいだ。こうした子どもでも、なにかと手つだう。錯登努瑪で、二歳の女の子がヒツジの搾乳をしているのをみかけた。作入用の容器であるおおきな野生ヤクの角にふりまわされそうになりながらも、一人前にちかい仕事ぶりである。さすがに力がたりないために乳がのこるらしく、母親が娘のあとをおってはあとしまつをつけていた。牧畜社会では、子どもは貴重な労働力である。
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放牧作業
揚子江源流域では、夏のあいだに草を刈って冬の飼料としてたくわえるということはまったくおこなわれない。また、放牧地の一部を壁でかこって家畜がたちいるのをふせぎ、秋から冬にかけての飼料として利用するという方法もとられない。そういう方法をとるには、草の生産量があまりにもすくなすぎるのであろう。これも高度による影響のあらわれだ。家畜は、年間を通じて自然状態の草を採食する。一年のうちすくなくとも八ヵ月間は、枯れた草をたべているそうだ。
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家畜の個体管理
わたしが家畜群に対するかけ声に興味をもつのは、それが人と家畜が共有する文化的な要素だからである。家畜は学習することによって、かけ声の意味を修得する。その意味では、かけ声の体系は人と家畜をセットとしてなりたっている。かけ声の体系を探求することによって、ユーラシア大陸にひろがる遊牧社会の文化的固有性と交渉関係をあきらかにしうる手がかりがでてくる可能性がある。
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住文化
テントは、現地語でバルゴという。テントの入口(バゴ)は、かならず東にむく。入口のうえには、魔よけのためのウサギの頭骨(リゴンゴ)をつりさげているテントがおおい。魔よけの主要な対象になっているのは、ドンジとよばれる悪霊である。ドンジは地上にのこった飼料で、急死や病死などの変死の場合におおくあらわれる。
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住文化
入口のあるテントの東面には、ヤクの糞や泥をねってかためた低い擁壁(ゴラ)がきずかれている。三〇センチメートルくらいのたかさのものである。テントによっては入り口の面以外にも擁壁をめぐらしていた。テントのすそから風がふきこむのをふせぐためである。擁壁のかわりに、食料用の穀物をつめたヒツジの皮袋をつみかさねているテントもあった。
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糞
朝早く子供達は、薪を集めに遠くの山へ出かける。木は一本も生えていないので、低木を拾い集める。近くにはほとんど残っていないので、相当遠くまで行かねばならない。またヤクの糞は非常に大切な燃料である。拾って石や壁にくっつけておけば所有権が生ずるらしい。よく乾燥すれば火もちのよい燃料となる。
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搾乳と乳加工
青海省からチベットにかけてみられる牧畜は、ヤクに偏した体系のように思える.ヤクの比重が、ほかの家畜にくらべて極端におおきいのである。青海省果洛蔵族自治州等では,ヤクのほかにヒツジやヤギを数おおく飼育しながら、搾乳の対象になるのはヤクだけである。その理由をたずねると、ヒツジやヤギを搾乳すればものわらいの種になるだけだという返答がかえってくる。
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交尾・出産・去勢
野生のヤクは、ゾンとよばれる。野生のヤクと家畜種のヤクとのあいだにうまれたこどもは、プンツァという。現地の人のはなしでは、野生種との後輩でうまれたヤクは体力が強靭になるそうだ。雑種のオスは、荷役用に最適だという。審議のほどは確認していないが、野生種との雑種が雌であれば入寮がおおくなる、という説明もきいた。これらの理由から、積極的に野生種との交配をこころみるのだという。
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交尾・出産・去勢
納欽曲流域では、ひとつの群れに毎年数頭の野生種との雑種がうまれている。おおくの場合、野生種のオスと家畜種のメスのあいだに交配がおこる。まれには、家畜種のオスと野生種のメスとの交配もあるそうだ。野生ヤクは狩猟の対象ともなり、毛は靴底に、角はヤギやヒツジの搾乳用の容器として重用されている。
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搾乳と乳加工
揚子江源流域でも、現在はヤギやヒツジを搾乳するテントが増えてきたが,解放まえはほとんど搾乳しなかったそうだ。搾乳したとしても、ごく少数でしかなかった。とくにヤギの搾乳は、二〇世紀になってから新疆からツァイダム盆地にはいってきたトルコ系のカザク(哈薩克)族からまなんだという説明もきいた。
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搾乳と乳加工
搾乳の対象がすくなく、乳製品の種類もすくないことは、牧畜の歴史のあたらしさをしめす状況証拠のひとつとかんがえることができるだろう。中央アジア、西アジアでは、ほとんどすべての家畜が搾乳の対象になり、多様な乳製品がみられる。
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