チベット高原万華鏡 生業文化の古今の記録を地図化する モザイク柄のヘッダ画像

チベット高原万華鏡テキストDB

「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。

なお、本DBは進行中のプロジェクトであり、引用や翻訳に間違いが含まれている可能性があることにご留意ください。ご利用される場合は、必ず原典を確認してご利用いただければ幸いです。問題があれば、 「チベット高原万華鏡」とはに示したお問い合わせ先にご連絡いただければ幸いです。また、論文、著書などで利用される場合は、本DBを利用したことに言及いただければ幸いです。

「チベット高原万華鏡テキストDB」の使い方
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家畜の個体管理
北方の牧畜民の一部地域では、初夏の時期に仔ヤクの首の血管から大量の血液を瀉血する習慣があるが、これは家畜の悪血を放出して体力を回復させ、健康にするために役立つという言い伝えに基づくものである。瀉血した血液を使って様々な料理を作る習慣があるが、ちょうど時期に合ったものとして、乳製品と合わせたものとしては、血液をトゥクパのように加熱して冷ますとヨーグルトのように凝固するので、それを四角く切って、ヨーグルトと混ぜて味わうというものがある。
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搾乳と乳加工
ソンダク、またの名をマルダクという。冬季、ヤクのバターなど、バターの類なら何でもよいのだが、それにツァンパや砂糖など三種の甘味を何でも混ぜてよく捏ねた後、細長い形にして、水鳥の卵より少し大きいくらいにしたものを木の棒の先端にまきつけて冷やし固める。それを遠火で炙り、バターの部分が少し溶けてきたら舌で舐めていただく。
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搾乳と乳加工
(ソンダクに類するものとして)バターだけ(で作るものもあり)バターミルクを取り除くためによく捏ねたあと、ソンダクと同様に丸めて木の棒の先に巻き付け、食べるときは遠火で炙り、少しバターが溶け出したときにツァンパの中に混ぜ入れ、バターの表面についたツァンパをバターと一緒に舌で舐めとって味わうものである。
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搾乳と乳加工
(ナクチュの)ダムシュンはチベットで唯一馬乳酒を作る地域である。過去には四家庭が行っていたが、今は二家庭のみである。そのうち一家庭は曲考部落の百戸長(ギャプン)の基格家である。5月から7月にかけて、一日に三回の搾乳を行うう。搾った乳はまずバターにして、残ったバターミルク(タラ)を煮沸して、出来た液体が馬乳酒である。高価で、一本25蔵銀で売れる。
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搾乳と乳加工
夏季は牛のバターは黄色く、羊のバターは白い。冬季はどちらも白い色をしている。
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搾乳と乳加工
バターを取り出した後にできる濃い液体はタラ(バターミルク)という。タラを煮沸するとチュルクができ、飲むことができる。やや長めに煮たチュルクを濾し袋で濾して乾燥すると、黄緑色の凝乳がとれる。これが青チーズである。残った液体はンゴスィンと呼ばれ、酸味を帯びており、飲むことができる。裕福な家庭では雇いの牧夫に与えたり、馬や犬に飲ませる。
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食文化
中流家庭の男性たちは毎日バター茶を飲むが、女性たちは白茶(お湯に少量のミルクと塩を加えた飲み物)を飲む。夏はタラ(バターミルク)がよく飲まれる。夏はバターを多く食べ、バター茶を飲むのを含めると、一人あたり毎日1ニャガ前後摂取している。冬もバター茶を飲むことができる。
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搾乳と乳加工
牛乳加工 (1)発酵乳:搾乳後、一定温度のもと、数日間置いておく(夏の場合は3-4日間)と、次第に酸っぱくなり、発酵乳ができる。(2)バター:発酵乳を両端の尖り中央部が太くなった横長の素焼きの容器に入れ、振盪させると4-5時間で油の層が浮いてくる。その時点で冷たい水を投入すると油が凝集するので、漏斗を用いて?丸く成形する。これがバターである。(3)凝乳:バターを取り出した後に残ったものを加熱すると、水分と乳成分が分離してくる。水分を取り除いた後に残ったものが凝乳である。
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搾乳と乳加工
チュー(シェデン)は臭いの強い伝統的なチーズ状の乳製品で牛乳またはヤク乳から作られる。インドでは、シッキム、ダージリン、アルナーチャル・プラデーシュの一部、ラダックで作られており、他にもネパールやブータン、中国(チベット)にもある。
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搾乳と乳加工
チューの作り方は酸乳(curd)を竹製または木製の容器の中でチャーニングし、得られたバターミルクを10-15分加熱して柔らかい凝乳を得たらモスリン布などで濾しとり、ホエーと分ける。凝乳を密封容器の中に詰めて5-7日間室温で置いておくと、チュー(図1)ができる。チューは、タマネギ、トマト、唐辛子とともにバターで炒め、カレーとして食べる(図2)牛肉やヤク肉も混ぜる。チューの辛いカレーであるエマダツィはブータンでは最も美味しい食べ物である。
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食文化
各村で三年分の糧食として、飢えを癒やす煎り麦を革袋500袋分、白いツァンパを革袋500袋分、黒いお茶を500箱分、栄養のあるバターを革袋500袋分、ヤクのチーズを鞍袋500袋分。
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搾乳と乳加工
チュルピ:牛乳を使ったこの発酵乳製品(チーズ)はこの地域に暮らしているチベット人がよく作っているものである。チュルピにはソフトタイプとハードタイプの二種がある。ソフトタイプは高地とテライ地帯(ダージリンの麓にある平地)の両方で作られているが、ハードタイプはダージリンとシッキム北部東部の標高の高い地域(1300-4000m)でのみ見られる。
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搾乳と乳加工
ソフトチュルピ(ネパール人はカッチャ・チュルピ、レプチャ人はチューと呼ぶ)は牛乳から作る。牛乳は加熱してもしなくてもよく、木製の桶で24時間室温で静置する。クリームを分離することが多い。そして(スキム)ミルクを沸騰させることで凝固させる。できたカゼインはモスリン布でしっかりと包み、3-5時間脱水する。(こうしてできた)チュルピはスライスした大根やきゅうりと一緒に食べたり、肉や野菜、スパイスと合わせてカレーを作ることもある。
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搾乳と乳加工
ハードチュルピ(ネパール人たちはチュルピ、シッキム人はチュラ、レプチャ人はカムムと呼ぶ)は牛またはヤクの乳から作る。遠心分離によってクリーム分離を行い、ホエーを添加し、スキムミルクを沸かして凝固させる。脱水の後、カゼインをしっかりと布で包み、重石を置いて0.25kg/cm2の圧力をかけて、室温(15-20度)で2-3日置く。その後、薄切りにして2-3週間天日乾燥させる。このタイプのチュルピは非常に固く、水分がほとんど抜けているので何年も保存することができる。
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搾乳と乳加工
ハードチュルピ(ヤクのミルクを発酵させたチーズのような乳製品)はラダック人やブータン人、チベット人、モンパ人のような高地に住む人々がチューインガムや咀嚼用として食する。噛んで顎や歯茎を継続的に動かすことで肉体に特別なエネルギーを得るのである。
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搾乳と乳加工
ソマルはネパールやシッキムのシェルパの年配の世代の人々がよく食べている。食欲増進や消化を助ける働きがあるという。ソマルは今はあまり作られなくなっている。
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家畜の個体管理
ゾムは、ヤク♀とゴレン♂(Goleng, チベット由 来の小型高地種ウシ)(写真 6)の交雑種(F1)で、 メスは乳量が多い。ゾム♀に、種ウシ(普通はゴレン)を交雑させて妊娠・出産させるが、産まれた F2 は乳量などの性能が劣るため、出生の数日後に額を一撃して殺す注 8)。その新生獣の毛皮はチョッキに仕立てたり、熟成チーズを作るための皮袋に加工する。稀にゾムの仔(F2)を育てることもあるが、 その仔はコイ(Koi)と呼ばれる。
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家畜の個体管理
ネパールのソル地域のシェルパの牧民の場合も同様だが、異なる方法を取る。ゾムの仔(F2) に生後乳を飲ませないで、数日後に飲ませると、仔(F2)は下痢で死ぬという(稲村・古川 2000: 171-181)。
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経済活動
国境を挟んだアルナーチャルとの間の交易関係は継続されたが、その交易の中味は、タワンに南からの道路が通じたあと大きく変わったという。国境紛争のあと、インド軍は実効支配を確立するため、道路建設と軍の駐留を急いだ。道路が開通すると、南からインド製商品が大量にタワン地域に入るようになった。また、軍の駐留により、肉と畜産物の需要が大幅に増えた。その結果、メラックの人びともあらゆる商品をタワンで手に入れ、一方、多くのバターや熟成チーズや家畜をタワンで売るようになったという。メラックの人びとの生活は、タワン地域を経由した(あるいはタワン牧民の仲介による)「チベットとの伝統的交易」から、タワン地域を介した「インド市場経済への参入」へと大きな転換が起こったである。
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搾乳と乳加工
ヒマラヤのシッキムの人々は何世紀にもわたり地域固有の発酵乳製品を作ってきた。これらのうちの一部はどの地域にも共通しているが、中には特定のコミュニティや地域に限定されているものもある。ダヒ(酸乳)、モヒ(バターミルク)、ギー(バターオイル)、ソフトチュルピ(ソフトチーズ)、ドゥードチュルピ(牛乳チーズ)は全てのコミュニティで共通して生産され、消費されている。一方、チュー(腐れチーズ)やフィルー(サワークリーム)はブティア人やレプチャ人のみが、ソマルは標高の高い地域に住むシェルパのみが生産し、消費している。
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