「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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さらにアムドのンガワ(アバ)地方では、茶汁に生乳を注ぐだけでなく、クルミや、桃の実の核を入れてよく攪拌して作るという習慣もある。宴会料理?の最上の飲み物と見なされている。
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これ以外にも、一部の地域ではお湯にバターを少し加えたものを白茶(チャカル)と言うことがあり、まだら白乳茶(チャタ・オカル)といって、茶汁にミルクと塩を入れて作る習慣もある。
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乳茶(オチャ)を作るに際してはバターを取り出していない生乳で作ることが多いが、バター生産のため、バターを取った後に残るバターミルク(オシャン)で乳茶を作ることもある。クリーム分(ティカル)の含有量が低いため、さほど美味しくはないが、体調を整える特別な効果がある。
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解放前にチベット族とロパ族の貿易管理にあたっていた統一戦線工作部のタチュ氏によると、中印国境が封鎖される前は、ロパ族のミンニャオ部落の人々はチベット族との物資の交換のためにメンリン県のナユパンガに行き、毎年8月と9月に5日間の日程で、平均約150人が、年間では最大300人が参加した。ミンニャオの人々が持ってくる主なものは、米、牛皮、虎皮、熊皮、猿皮、キョン皮、野生牛の皮、麝香鹿の皮、熊の胆などであった。他にも攪乳器、カニ、ショウガ、藤縄、ミンニャオ刀、またピリ、スメ、カコラ、ミンスなどと呼ばれる各種の薬草があった。
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彼ら(ロパの人々)が買って帰る主なものは食塩、羊毛、山羊毛、ヤクの尻尾、銅製の耳飾りとブレスレット、ほら貝、数珠、チベットの刀等である。
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牧畜の主要な製品はバターとチーズである。牧畜民の日常における最も重要な作業は搾乳とバターづくりである。乳を出す時期の雌ヤクまたは雌ゾは毎日二回の搾乳を行う。早朝、牧畜民は搾乳した乳を羊皮でできた袋に入れて、冷水に浸す。2-3時間経ったら皮袋を取り出し、銅鍋に入れて加温し、発酵させる。人肌程度に温まったら、木製の攪乳器の中に入れ、攪乳棒を上下させる。数百回もするとバターが浮いてくるのでそれを手ですくい取り、木製の盆に入れ、手で水分をよく絞り出したら手で叩いて四角くまとめたらできあがりである。
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バターを取り出して残ったバターミルクを加熱して木桶に入れ、そこにホエーを少々加えて一晩置くと、凝乳が沈殿する。ホエーを流して凝乳を取り出すと、まるで豆腐のような状態になっている。そのまま食べてもよい。牧畜民はこの凝乳を袋に入れて少し乾燥させてから手で細かくして粉末状にする。これがいわゆるチベット人の大好きな細粒チーズ(チュルシプ)である。凝乳が湿った状態のまま小さく切って乾燥させると角型乾燥チーズ(チュラ)ができる。これはチベット人が来客時などにお茶うけにする。
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牛を屠畜する際は四肢をしっかりと縛り、ひっくり返して仰向けに寝かせ、角をしっかりと押さえつけ、腹に穴を開け、鋭利なナイフで喉を突き刺して直ちに死に至らしめる。羊はナイフを使わずに、四肢をしっかりと縛り、口と鼻の周りを縄で縛って窒息死させたあと、皮を剥いで腹を切り裂き、腹の中のガスを抜く。牧畜地区では、漢地の屠殺人のような専門職の者もいるが、一般にはラマを除く全ての牧畜民一般男性が牛や羊の屠畜に長けている。
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これを長期保存させるには、囲炉裏の上に置き、薪から出る煙でいぶす(写真4)。脱水を進めると共に、燻煙による保存性の向上とを狙った加工である。この燻煙したチーズをチュラ・ガンプ chura gumbuと呼ぶ。ガンブとは「乾燥した」を意味している。チュラ・ガンブは燻されて、表面が茶色くなっている。チュラ・ガンブにすると長期保存が可能となる。
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チュラ・ガンブを燻煙しても、内部には水分を未だ多く含んでいる。チュラやチュラ・ガンブは、表面に白カビが付着し、水分含量が高いため、適度な冷涼条件下のもとで、そのまま静置しておくだけで熟成が進展していく。
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また、もう一つチーズを長期保存させる方法があり、バターと同様に、家畜の皮革で包むという。皮革で包んだバターをチュルタン churtangと呼び、1年以上も保存できるという(写真6)。チュラ・ガンブも、チュルタンも、表面に白カビが付着している。アジア大陸においてカビを利用した熟成チーズは今までに報告された事例がなく、このヒマラヤ山脈東部南斜面の本調査地のみである。
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パという料理は、白カビ熟成チーズのチュラ、バター、そして、トウガラシを加えて30分ほど煮込んだ料理である。少量の塩で味を整える。煮込んでいる分、とろみが出ている。パの風味は、みそ汁を思わせる旨味とブルーチーズのような濃厚さ、そして、トウガラシの辛さによって味が引き締められている。納豆や味噌などの大豆発酵食品に慣れている者にとっては、極めて上等な味がする。
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ザンは、トウモロコシ、オオムギ、もしくはシコクヒエを粉にして、湯で練った食べ物である。囲炉裏の炭の上で、30分ほどかけて捏ねあげる。このザンをスプーン代わりにして、パを掬いながら食べる。ザンは握りこぶし2つ分ほどを食べることになり、胃袋にどっしりと重くたまる。
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ブロクパの食事は、白カビ熟成チーズを用いた煮込み料理のパ pa と穀物の練り物のザン zhan によって成り立っているといっても過言ではない。ブロクパの65歳のT氏に聞くと、小さい頃は朝食、昼食、夕食の1日3度の食事は、基本的にはパとザンであったという。ローサルと呼ばれる新年のお祭りの時には肉を食べたり、用事で低地の町に出た際には米を買ってくるくらいで、特別な日以外は基本的にパとザンを1日3度食べていたという。
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のちに、彼らの一人ひとりが首に小さな袋を吊るして入るのを見て、あれは何かとたずねると、塩が入っていて、食事のたびに少しずつふりかけるのだそうである。彼らの食物は肉類と乳ばかりで、塩はここでは産出せず遠くから来るので、非常に大切にするのである。
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彼らはまた豚の肉は汚れた物としてだれも食べない。食卓にそれが並んでいるのを見ると三日も嘔吐が止まらないそうである。
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毎日陽が落ちると円く炉を囲んでヨーグルトを沸かして飲みながら盛んに牛や馬について語る。あれが仔牛を孕んだ、これが仔馬を生んだなどと話し合っているが、牛や馬にはそれぞれ名がついていて、たとえば張さんという人から買ったものなら張牛といい、王さんから買ったものなら王牛というふうで、そのために話がどんなにこみ入ってもけっして紛れない。
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顔には脂粉を塗る。昔の女はトゥーチャといふ粘っこいゴムを用いて顔に塗り、夜寝るときは特別に厚くしたものである。この塗料は顔にぬったあとで紫色に変わる。漢人から見ると非常にみにくい。紫色の上に紅をつけるものがある。遠くから見るとあばたのようである。
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キュルトゥク:ヤクの肉と大根を細かく切る。骨のスープに肉と大根、チーズ、塩、ツァンパを入れて加熱し、繰り返しかき混ぜる。
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チュリュ:ヤク肉を一口大の角切りにしてゆで、チュリュ(腐れチーズ)とトウガラシ、塩、バター、小麦粉を加えて加熱し、よくかき混ぜる。
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