チベット高原万華鏡 生業文化の古今の記録を地図化する モザイク柄のヘッダ画像

チベット高原万華鏡テキストDB

「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。

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「チベット高原万華鏡テキストDB」の使い方
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801
食肉加工と部位名称
ヒマラヤの人々は地元で手に入る生肉の保存方法に長けており、肉の切れ端や内臓、脂肪、血液など、あまり魅力的でない部位を使って腸詰め的なものを作ることができる。伝統的な腸詰め的な加工品は肉の余った部分を活用して作られているのである。
802
食肉加工と部位名称
土地の人々は食料が不足していた時代にこのような保存技術を編み出したのかもしれない。ヒマラヤの伝統的な肉加工品は微生物の培養も亜硝酸塩・硝酸ナトリウムも使わずに自然な形で作られている。
803
食肉加工と部位名称
牛肉のカルギョン(ラン・カルギョン)は牛肉を使って作られるシッキムの伝統的な腸詰め料理であり、ブティア、チベット人、ブータン人、レプチャ人、シェルパ人が好んで食べる。柔らかいものと硬いものとがあり、色は茶色である。レプチャ人はティクレーと呼ぶ。
804
食肉加工と部位名称
牛の赤身肉と脂肪をみじん切りにし、潰したニンニク、ショウガ、塩を加え、少量の水を加えてよく混ぜる。ヨーロッパのソーセージ加工のように砂糖や亜硝酸塩、硝酸塩を加えることはない。混ぜたものは、現地語でギュマと呼ばれる腸に詰め、直径3-4cm、長さ40-60cmになる天然のケーシングとする。一方の端は紐でしばり、もう一方は詰め物で蓋にする。詰めたものは20-30分間ゆでる。ゆで上がった腸詰めは取り出して、台所のかまどの上にわたした竹竿に吊るして10-15日間燻製・乾燥させてできあがったものがカルギョンである。
805
農業
もし種子をまけば、いろんな野菜ができることは経験から明らかだが、チベット人はカブラ、大根、ニンニク、タマネギを栽培しているにすぎない。
806
日常の行為と道具
また、塩はチベットに大量に存在する。チベット王国はもとより、ネパールや、すでに述べたロパの地方にも産出する。この塩といっしょに、土地の言葉で「プトア」と呼ばれる、白くて大変細かな粉末が見られる。チベット人はそれをお茶の中に入れるが、入れるとまた、油のしみを取ったり、衣服の汚れを取るのにも使われる。
807
役利用
山羊や羊もたくさんおり、羊は大型のものである。その羊毛はすばらしく、肉は実においしい。また山羊も羊も塩や米、その他の荷物の運搬に使役され、長い旅に出ていく。
808
経済活動
東に一日行くと、大きな川〔ツァンポ〕に出くわし、木の舟でそれを渡る。そしてこの川の南、山の麓にツェタンと呼ばれる大きな町がある。同名のツェタン県の中心である。数人の知事と国の大臣がそこに住んでおり、いく人かはタルタル人、他はチベット人であり、市が毎日たち、重要な商業の地であるため、多数の商人がいる。ここでは絹のようなたいへん見事なウール布地が大量に生産され、チベットでは大いに珍重されている。
809
経済活動
ツェタンは多くの商人が通過するため、重要な場所となっている。この県では西でヤルルン県と接する。ヤルルン地方には水晶の大きな塊がたくさんあり、ネパールやヒンドゥスタンへ大量に輸出されるので、チベットでは有名である。
810
経済活動
東には人口の多いイェー県があるが、そこの知事は他のすべての知事の長である。このイェーではチベットの他の地方よりも多く金がとれ、かなり大きな金塊の形でもとれる。山やまにはまったく樹木がなく、わずかにまばらな短い草が生えているにすぎない。
811
経済活動
パリとモン(北西ブータン)の地方はツェタンの南と南東に位置する。そこではチベットの他の地方へ送られる米が大量に生産され、最高に素晴らしい赤い染料のとれる、ある酒の赤い小枝も産する。この染料は毛織物によく、チベットではどこでも使われている。またこの地方からは、布地の染色に用い、スペイン・ワックスも作り出すトラガカントゴムの樹脂も大量にくる。いろんな種類の白木綿、絹のような布地、木綿と呼ばれる種類の布地はすべてモンとパリで作られ、これらの産品はチベット中に知られている。とくに赤い染料と樹脂はそうで、商人たちがごく少量をそこで買い求め、他の地方で高い値で売る。
812
植物と動物
果物、とくにブドウがタクポ・キエルで多くとれるのだが、このタクポ地域はチベットの他の地域よりも森林が豊富である。大黄(レオポンティコ)はこの地方の産地全域に成育し、アッセンツィオ・ポンティコはごく普通に見られる。マメ科のシナガワハギ、甘松(ラベンダーの一種)、樹脂を含んだビャクシン類、また、たいへん素晴らしい松ヤニもとれる。
813
経済活動
チベットで使用される筆記用紙はこのタクポ地方からくるし、ネパールへも大量の紙が送られる。それらの紙はタクポに成育している灌木のひとつの、細長い枝のうすい樹皮、表皮から作られる〔ダフネのこと。第一篇の註記(30)を参照されたい〕。
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食文化
太って柔かく、味のおいしい牛肉、羊肉、山羊肉、豚、ジャコウジカ、食用によい二、三の大きな鳥、それに魚、卵、米、カブラ、エンドウ、その他の野菜、果物、生乳、バター、チーズも食べる。小麦のパンは食べないが、炒ってひいたオオムギの粉、ツァンパは食べる。小さなお椀に入れて水ーーたいていはお湯ーーを少量加え、肉と一緒に食べる。旅の道中では多くのチベット人は乾した生肉を食べる。
815
食文化
彼らはまた小麦粉と砂糖、バター、あるいはリンゴとバターで作った菓子が好きだ。そして昼食や夕食にはトゥクパを食べる。これはスープの一種で、中に肉のこまぎれが入り、バター、米、いろんな種類の薬味が入っている。あるいはまた、肉にバター、小麦粉、その他のものが入っている。貧しいものは水、バター、大麦粉でスープを作る。
816
糞
また、一部の人たちは料理や暖房に薪を使うが、樹木はチベットにまれだから、通常は牛、羊、馬の乾いた糞を燃料とする。貧しい地域では、貧弱な短い草付きの、土のついた大きな方形の芝生を四センチほどの厚さに切りとり、乾燥し、炉の周囲に立ててゆっくりと燃やす。それは高熱を出し、こまかな灰になっていく。油のほとんどないところでは、灯火の代用に松の木の小枝が使われる。それは樹脂があるためによく燃える。ネパールのあちこちでもこれが使われているのを私は見たものである。
817
食文化
みなは一日に何回もチャを飲んでいるが、これがわれわれのいうお茶である。その作り方はヨーロッパやシナのやり方とは違う。大きな陶製の壺(僧院や尼僧院では巨大な真鍮の大鍋)の中に少量の水と、若干のプトア、適量の茶を入れる。プトアはすでに述べたように、塩分を含んだ土から取った白い粉で、お茶に味はつけないけれど、赤ワインのような赤い色をつける。
818
食文化
お茶は水がいくらか減るまで沸騰させ、チョコレートをかきまぜるように、泡がいっぱいになるまで長時間、茶筅で激しくかきまぜる。それが茶を漉して水を加え、再びそれが沸騰するまで火にかける。そのあと、新鮮なミルクをその中に入れ、少量の塩と良質な黄色いバターを加える。お茶は別のきれいな容器に移し、もう一度かき回して泡立たせ、ついで銅や真鍮の小枝模様の飾りのついた木製の茶壺に入れる。
819
食文化
そしてみなは三杯も四杯も飲む。最後の杯は茶を少し残し、それにとけたバターを少量、ほんの少しの砂糖とチュラ、わずかの大麦粉をいっしょに入れるのが一般的である。チュラというのは砕いたようなチーズのことで、これらをいっしょにこねて、その人が食べるか、あるいは動物に与える。このやり方はお椀をきれいにし、乾かすのにまったく好都合である。以上のように用意された茶は、ほとんど一日中飲まれ、訪問者にはいつでも出される。
820
糞
男女、あるいは少年、少女は自分の村や共同体に割当てられた山地に行って薪を切り、家に運び、あるいは燃料用に乾いた牛の糞をさがしに行く。ここではあえて「村に割当てられた山地」といわせてもらおう。というのは、各村の住民はある一定範囲で薪を切ることを許されており、もしその範囲を越えると、罰せられる。
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