「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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(イラクサのクレープ巻き)この料理を作るには、まずイラクサと、小麦粉、肉と脂身、塩を用意する。イラクサを摘むにはチベット暦5月か6月の新芽のときが最もよい。摘んだイラクサは水で洗って乾かしたあと、手でよく揉むか、石のすり鉢で搗いて細かくする。それから鍋に水を入れて肉と脂身、小麦粉、イラクサ粉、塩を入れて混ぜ、イラクサのニョクになるようによく加熱する。その後、他の鍋で薄く伸ばした薄いクレープを焼き、折り畳んだクレープの中にイラクサのニョクをはさんで食べる。精進料理を作るときは肉と脂身を入れないだけで他の作り方は同じである。
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父は振り分けにして担いだ荷物を重たそうに地面に下ろすと、荷を解いて中を探り、牧畜民の干しチーズを取り出すと、ぼくや一緒に遊んでいた子供たちに分けてくれた。ぼくたちはミルクの香りと酸っぱい香りのするチーズの塊を口に入れ、もぐもぐと嚙んだ。でもそれはミルク飴や棗のように甘くないので、残りはポケットにしまった。
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また、アムド地方からは馬やラバ、ロバ、mtshur、柿、干し棗など、カム地方からは荷駄用のラバ、雌雄のゾ、バター、皮類、麝香、鹿角など、タクポ地方とコンボ地方からは、紙やバター、チーズ、ラバ、雌雄のゾ、クルミ、干しアンズ、豚肉、ロタク地方、ロカ地方からは板、材木、椀、盆、zar bu、毛織物、穀物やツァンパ、ヤムドク地方からは羊肉、ヤク肉、干し魚、ツァン地方やトゥー地方からは絨毯、dbang grum、紙、phing(陶器?)、小麦粉など、各地の特産品がラサに運ばれてきて、故郷で必要なものを買い集めて持ち帰るのである。
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そのうち夕食が運ばれてきた。6つの大きな低いテーブルに、木製の塗りのプレートが並べられた上に、中国産やカシミール産のドライフルーツ、砂糖、糖蜜菓子、砂糖菓子、そしてねじり菓子の山、乾燥した羊の枝肉などがラマの前に用意された。
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南の方のタクポ、コンボ、カムには森林があるが、ンガリ、ツァン、ウー、チャンタンの山々には低木がなく、ほんのわずかな樹木が生えているだけである。あまりに木が少ないので、家を建てるための梁に使うにはあまりにも少ないので、燃料には枝だけを使い、馬や牛や他の動物の糞を燃料に使うのが常なので、木材は高価な値段をつけて売る。
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チベット人は、ミルクとバター、塩を入れたお茶を大量に飲む。茶碗に少し残したお茶に大麦粉(ツァンパ)を混ぜて糊状にして食べる。昼食と夕食にはお茶か水を混ぜた大麦粉(ツァンパ)のペーストを生の肉や魚、または塩を添加せずに乾燥させた肉とともに食べる。
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谷の人々は小麦と大麦、豆を生産している。小麦は非常に単純なつくりの水車で粉に挽いている。豆は牛の飼料用である。農民や多くの人々は粉を生地にして、また谷で生産されている油で焼いたものや、羊肉またはヤク肉を食べて暮らしている。
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上流階級の人々はデブ・ラージャの国(ブータン)から運ばれてくる米や、発酵していない生地をねじってバターで揚げたパン、搗いた米を入れてとろみをつけた羊肉のスープ、骨付きまたは細かく切った羊肉、あまり多くはないが牛肉、そして中国やカシミールから運ばれてくる砂糖菓子や果物を食べている。
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豚肉に関しては、近隣の王国では非常によく食べられているが、チベットには豚はほとんどいない。
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ファーク・カルギョンはヒマラヤで豚肉から作られる伝統的な腸詰めである。ブティア人、レプチャ人、シェルパ人、ブータン人、チベット人が共通して作る。
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克:羊毛・バターの計量単位で、重さで(nyag ga)と呼ぶ。「克」は20ニャガで、6.63市斤(市斤:500g)の重さである。青稞、ツァンパ、奶渣の計量単位では質量で、('bo)と(be)を呼び、農業地域の「克」と「車」と同じなので、後者を用いる。青稞は1克で25斤、奶渣1克は、20斤である。
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普通、家畜に飼料をあげない。冬春には母のいない仔牛に、ツァンパと煮出した茶葉、「撒包」(za po)等の補足飼料、さらに塩とバターを添加したものを食べさせる。仔羊はバターを加えたツァンパのドロドロを食べさせることができる。奶渣も飼料にすることができ、「帕达」や「才扎木」等の大世帯は毎年2~3克のツァンパと奶渣が必要である。
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以前は、地面や草原を掘ることは地下の神に失礼なことで、神が不吉なことを起こすという迷信があったため、草原の表面や土石等で囲いを作ることはなく、レンガすら作らなかった。……今は多くの牧畜世帯、特に牛の少なかった小さい世帯では、党の号令の影響で草原の表面を使って囲いを作るようになった。この囲いはとてもよく、倒れにくくて、牛糞の少なさの制約を受けない。
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搾乳桶。木製で高さは8寸程度、直径は9寸程度の円形の桶。一般的に「尼木」等の農業地域から購入してくる。牛乳を搾るときの容器で、ミルクや酸乳、タラを入れる。
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搾乳角。多くは安多以北から購入してきた野牛角で、大きいヤク角も用いることができる。角先と口で持ち手を縛る。主に羊の搾乳に使い、容器にもできる。
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バター作り桶。高さは約3尺、直径約9寸の木製の円桶。中に木のピストンがあり、そこに3、4つの穴がある。生産地は工布、尼木、索宗等。バター作りに用いる。
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N: バターを攪拌して、マルチャンと呼ばれるバター保管用の竹筒に入れるんですが、それを土の中に埋める人もいます。 K: 土の中にどうやって埋めるんですか? N: 土を掘って、その中に入れたら、上から土をかけるんです。 K: そうしたら腐らないんですか? N: 腐りません。
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ヤク肉のサチュは撚り糸のような形にして乾燥させたヒマラヤ特産の肉の加工品で、チベット人、ブティア人、ブータン人、レプチャ人が多く食す。
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ヤクの赤身を60-90cmの細長く切り、ターメリック粉、食用油またはバター、塩をよく混ぜる。それから肉を竹竿か木の棒に吊るして、好みに応じて、家の廊下に置いて風に当てるか、かまどの上でスモークさせるかして、10-15日間乾燥させる。ヤク肉のサチュは室温で数週間保存できる。
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ヤク肉のサチュは洗って軽く水に浸し、水を切ったら、刻んだニンニク、ショウガ、トウガラシ、塩を加えてヤク乳のバターで炒めてカレーにする。濃厚なスープができたら麺とともに食べたり、焼いたジャガイモとあわせて食べたりする。油で揚げたサチュは地元の人々に人気のある副菜でどの家でも伝統的なアルコール飲料を飲みながら食べたり、特別な機会に食されたりする。