チベット高原万華鏡 生業文化の古今の記録を地図化する モザイク柄のヘッダ画像

チベット高原万華鏡テキストDB

「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。

なお、本DBは進行中のプロジェクトであり、引用や翻訳に間違いが含まれている可能性があることにご留意ください。ご利用される場合は、必ず原典を確認してご利用いただければ幸いです。問題があれば、 「チベット高原万華鏡」とはに示したお問い合わせ先にご連絡いただければ幸いです。また、論文、著書などで利用される場合は、本DBを利用したことに言及いただければ幸いです。

「チベット高原万華鏡テキストDB」の使い方
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食肉加工と部位名称
ヤクの脂(ツィル)は北部シッキム、中国のチベット、ブータンで作られる保存用の脂である。食用油が手に入りにくいときに代替品として用いる。チベット人やブティア人が主に利用する。
882
食肉加工と部位名称
屠畜したばかりのヤクから脂身を外し、手で捏ねて、きれいに洗った(屠畜済みの)羊の空の胃の中に詰め、最後に縫い合わせて留める。脂身は5-10時間重石をして潰してから、10-15日間板に載せて家の廊下に置いておく。一年以上にわたって使うことができる。
883
搾乳と乳加工
中級世帯のツァンパは青稞を洗って皮ごと挽いたもので、食べる時には白奶渣を加える(注:奶渣は白と緑の2種類に分かれる。白は酸味があり、質が悪い。緑はバターを含んでいて質が高い)。
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農業
麦作農耕類型:西アジアの冬雨地帯に起源。主作物はコムギ・オオムギをはじめとする各種の冬作物。家畜飼養と有機的に結合し、乳製品の食料としての役割が大きい。
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食文化
もっとも古いムギの調理法と考えられるのは炒りムギであるが、それは麦作混合農業地域の辺境に位置するチベット世界において、現在もよく伝承されている。前にも述べたが、ハダカオオムギの粒を高温に熱した小石や砂にまぜて炒り、小石や砂を選別したあと、その炒りムギを粉にする。これがツァンパとよばれ、いまもチベット人の主食になっている。
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食文化
このほかチベットにはシャクパという雑炊料理やそのほか、いくつかのムギの調理法がある。いずれにしても乳脂肪(ギー)がたっぷり入ったバター茶と乾燥チーズやヤクの乾燥肉など、乳畜産製品がツァンパなどとセットになって、その食事体系の中核を形成している点に特色がある。
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食文化
「西」のムギ類を主食にする食事文化圏のもっとも大きな特色は、その発生の当初からヤギ・ヒツジ・ウシの飼育を伴い、伝統的にその乳と肉の加工・利用がきわめて盛んなことである。この「西」の食事文化圏の各地にはバター・チーズ・ヨーグルトなど、各種の乳製品の土着の製法があり、ヤギ・ヒツジ・ウシの肉料理が、このムギの食事文化圏の特徴を形づくっている。
888
食文化
インド東部以東のユーラシアの「東」の地域を代表する主食はコメである。これは粉食を原則とするムギと異なり、一般に粒のまま煮てツブガユ(米飯)に調理される。しかも、この地域ではコメの主食としての比重がきわめて高いことが特徴的である。ムギに較べコメのもつ栄養的バランスが非常に高いことが、そのことを可能にした要因だと考えられる。したがって、副食としては大豆やその発酵食品、魚などが相対的に重要性を占めるが、伝統的な食事体系のなかでは、エネルギーや淡泊の供給源としてコメのもつ意義がきわめて大きく、主食としてコメへの依存度がきわめて高い。
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搾乳と乳加工
カラリまたはクラディは、伝統的にはメシュクラージとして知られるもので、インドのジャンムー・カシミールのヒマラヤ地方に見られる半軟質のチーズである(Lawrence 1886)。伝統的にはインドのジャンムー・カシミール州のショピアン、クプワラ、パハルガム、プーンチ、ラジョウリといった高地に住むグジャールやバカルワルと呼ばれる部族が主に生産している。
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搾乳と乳加工
(カラリ、クラディというチーズは)酸乳を攪拌してデシというバターを作る際にできる酸性のバターミルクから作られる(Punoo et al. 2017)。バターミルクをバッファローの生乳に1:5の割合で加え、40-60℃に加温する。加温の結果、ホエーと凝固したカゼインに分かれる。分離したホエーを取り分けたあと、凝固物は生地のような塊になるまで熱で伸ばす。最後に直径5-20cm、厚さ0.2-2.5cmの円盤型に成形してできあがりである(Mushtaq et al. 2015)。
891
食肉加工と部位名称
キョッペは北部シッキムのユニークな肉製品で、ヤクの第一胃の中に肉や内臓を詰め込んで自然発酵させた食品である。北部シッキムのラチュンバの人々が主に生産している。仏教徒のお祭りに備えてヤクの屠畜が行われる12月に主に作られる。初冬に新鮮な肉を得て、残りはキョッペまたはサチュなどとして保存される。
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食肉加工と部位名称
キョッペの詰め物としては、肝臓、肺、脂肪、腸といった内臓で、それらを細かく刻んで必要量の塩を混ぜたものである。これをヤクの第一胃に詰め、紐で縛りあげ、かまどの上にしつらえた竹竿に掛けたり屋根裏から吊るしたりして4-6か月、あるいは1年、燻煙・乾燥を施したものがキョッペである。キョッペには柔らかいものと堅いものがあり、色は茶色である。
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糞
彼らはテントの西側に、風を防ぐための畜糞の壁を建てて、同じ素材で羊囲いを作る。テントの外には、その(畜糞の)大きな山がいくつか見えた。
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植物と動物
道中、オオカミの罠を通り過ぎた。その罠は地面に掘られたくぼみでできている。口は板で閉じられており、それを押して落とすと、石が放たれて穴の回りに置かれた縄を締めることになる。
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家畜の個体管理
ヒマラヤ原住民の生活は、一年間に一戸あたり一荷の塩が必要らしい。即ち約三十キロ、一日あたり約八十グラムほどである。塩でつけた漬物を作らない風習であるから、この塩は純粋に人間の口の中に入るものもあるが、じつは過半量は家畜ーーといってもおもに牛のことだがーーに与えられている。
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農業
ハ・ゾンの狭い谷は細くて長い。両側には切りたった山が迫り、森林が黒々とかぶさる。谷底の海抜高度は二千七百メートル、この高さではもう稲は育たない。夏中雲がたちこめ、毎日数回雨が降る。ハ・ゾンは冷たい日陰の谷だ。住民は石ころの多い小さい畑を耕し、秋蒔きの麦とソバをつくる。冬は雪が積る。もし雪が少なければ、かえって麦は枯れてキキンになる。
897
搾乳と乳加工
かまどの横で娘が一人、バターを作っていた。大きなおけの中には前夜しぼったヤクの乳が一杯醗酵している。娘は先に丸い板つけた棒で、乳の中を激しく上下に動かしてバターを分離している。西洋流にいえばチャーニングしているわけだが、ビーティングといったほうがもっと適切な感じのする攪拌法だ。
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放牧作業
ヤクを飼う人々は夏草の茂る間は畜群を釣れてテント暮らしの放牧に出る。牧人たちは塩をやってヤクを手なずけておく。ヤクの群れは朝夕二回テント場へ帰ってくる。そこには子牛がつながれている。母牛は放牧中でも乳がはってくると、子牛のことを思い出し勝手にそっちの方向へ歩き出す。するとほかの雄牛も老牛も、それにつれていっしょにぞろぞろとテント場へ来て塩をもらうというわけだ。
899
放牧作業
冬になると草はなくなり、乳も出なくなる。彼らは畜群を連れて谷の中の越冬地へ帰って行く。モミの林のカゲに立った雪に埋もれた石づくりの小屋の中に、彼等はひっそりと暮らして冬の過ぎ去るのを待つのだ。その間ヤクの群れは森林の中をうろつき、灌木の小枝を食べて命をつないでいる。
900
屠畜・解体
不運なヤクの何頭かは、雪のくる前に、巡回屠殺者の手でラマ僧の読経のあとで殺され、その肉は干されて牧人達の貯蔵食糧にされてしまう。春がくるとヤクの群れは再び緑の高山帯に登って子牛を生んで乳を出しはじめる。
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