「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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カランバはサツウに凝乳を混ぜて調理したもの、マンタはサツウに蜜その他を混ぜたもの、あるいは炒った大麦をそのまま粥にたいたものはバーティアと呼ばれているなど、炒り麦製品の調理法はワンセットが出現してくる。このような点からみても、インド古代は小麦よりむしろ大麦を主として、それを炒って食べる方法は大変発達していたとみて誤りないだろう。
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少なくとも1000頭のヤクが見えたが、彼は全てが乳用であると言って、その確認のためにバケツ一杯のミルクをくれた。さらに、乾燥した畜糞を2袋くれた。地面が雪に覆われて何も入手できなかったので、彼の気遣いに大いに感謝した。
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送られてきた燃料の中には、Juniperus excelsaが混ざっていたので、きっと近くにあるに違いない。
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われわれは甘粛省を南西方向に向かって進む旅を続けた。この地域は丘陵地帯と川に挟まれ、全体的に豊かな土地である。見事なまでに多様な生産物は、穏やかな気候と肥沃な土壌によるところもあるが、とりわけ農民たちの活動と技術に負うところも大きい。
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主たる作物は小麦であり、ヨーロッパのような素晴らしいパンが作られている。米はほとんど栽培されておらず、わずかな米が近隣の省から運ばれてくるのみである。
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山羊と羊も良質で、パンとともに人々の主な食糧となっている。また、無尽蔵ともいえる石炭の鉱脈があるため、誰もが十分な量の燃料を手に入れることができる。従って、甘粛では誰もがまっとうな生活を送る手段を確保しているように見えた。
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彼らは宿営地を定めたら、4-5フィートの高さの壁を作る。テントの中にはかまどを設置する。しっかりとした趣のあるものだが、だからといって土には特に執着することなく、ほんの気まぐれで宿営地を引き払い、石組みも全て壊してしまう。しかし基盤となる石は持ち運んでいるので、それらは家具の一部と見なしているのかもしれない。
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彼らが飼養している家畜の種類は羊、山羊、長毛の牛(ヤク)である。馬はモンゴル人のようにたくさん飼ってはいないが、強く、かつ気品のある馬を持っている。
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ミルク茶をたっぷり沸かした大鍋を囲むと、彼らは面白い噂話を自由に語り出す。彼らが特に好むのはラマや強盗の話題だ。誰かがけしかけるだけで、誰かが逸話や地元の伝統、伝説などをいくらでも披露してくれる。
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トマ芋と大麦と豆は食の粋 来客用ならトマ粉がいい 日常用なら大麦粉 味がいいのは豆粉
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アマは、朝早くからチャーニング(攪拌操作)をしている。攪拌棒でダヒ(凝乳)をかき回して、バターをほかの乳成分からわけているのだ。チャーン(攪拌装置)は、バター茶攪拌器と同じ形式である。細長い木製の筒に、同量の水とダヒを入れ、攪拌棒を上下させてかき回す。乳脂肪を分離し終えるまで、ニ〜三時間はかかる。重労働である。
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脂肪分をとり除いた後、残りのマヒ(mahi・脱脂醗酵乳)からは、チーズをつくる。クンブ地方では、ナクかゾンの乳を利用するが、アパ・テンバ家では、乳牛も飼っていた。
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シェルパ族における乳加工の主目的は、保存や味覚の問題よりも油脂をつくることにあるようだ。ヨーロッパに伝わるバターの製法は、新鮮乳を静置しておき、上層に浮かんだクリームをチャーニングしてつくる。アジアの多くの地域では、新鮮乳をいったん煮沸し、醗酵させてから、バターをつくる。シェルパ族もこの方法をつかう。
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しぼった乳を集めて、火にかける。一度煮えたったところで、火からおろして人肌程度に冷やす。冷えた乳に、前回のダヒを入れて、十分にまぜあわす。厚手の毛布に包んで、静置する。アマのつくり方は、スターター(種菌・乳酸菌)を加える方法である。
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タンボチェ寺院のラマ僧が教えてくれたつくり方は、一度も洗ったことのない容器に乳を入れるだけで、スターターを用いない。すなわち、熟成用の容器に付着している古いダヒが、スターターとなるのである。
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ギーは、ダヒから分離した醗酵バターに塩を加え、加熱してつくる。できあがったギーは、木製のツボや金属製の罐に貯蔵しておく。ギーはほとんど純粋な乳脂肪であるから、保存性は極めて良く、安定した油脂食品の一つである。常温でも一年近く貯蔵できる。
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クンブ地方では、燃料として、家畜の糞のほかにたき木も使う。クムジュンには薪にする木が少ないため、ほかの村から買わなければならない。とくに酒をつくるときは、いつもよりたくさんの薪がいる。そのため、このシェルパニの家から、たくさんの薪を買ったのだ。
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夜間は火種を灰でおおって、火を絶やさないようにする。カマドに火をつけるときは、前夜からの火種とたき木を使う。火つけ用には、先端をたたきつぶした細い木枝を使う。燃料は、家畜の糞と薪である。
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燃料は調理のためのもので、暖房だけに使うことはめったにない。アマ(母)は、水と熱を、じつにむだなく使う。あいているカマドの穴、使用中のナベのうえにもフタをしないで、水を入れた別のナベを置く。こうしておくと、予熱だけで、いつも湯を用意しておけるからだ。
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汚れた食器はまとめておき、夕食が終わってから煮沸する。バター茶をはじめ、ほとんどの料理にはギーやヒツジの油脂が入っているため、熱湯で洗わないと、十分に油の汚れが落ちないからだ。油のこびりついたフライパンは、熱い灰を入れて麦わらでこすって洗う。