「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。
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三等級目はウシ属の糞である。これは完全に乾くと、すぐに燃え、煙も全く出さない。韃靼とチベットで見られるほとんど唯一の燃料である。
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最後のものはウマやその仲間の糞である。他の家畜と違って反芻動物ではないので、ある程度すりつぶされた草の塊に過ぎない。燃やすと大量の煙を出し、あっという間に燃え尽きてしまう。しかし他の燃料への火口や紙の代わりとしては有用である。
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冬の寒さから身を守るために、チベット人は釉薬のかかった小さな容器を部屋の中央に置き、そこで畜糞(アルゴル)を燃やす。この可燃物質ときたら熱よりも煙をまき散らす性質があるので、暖を取りたい人は、とにかく天井に煙を通す穴を開けておくことが肝要で、そうすれば煙で窒息する危険を冒すことなく火をつけることができる。
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チベットでは四種類の葬送が行われている。第一は火葬、第二は川や湖への水葬、第三は山の頂での風葬、第四が一番好まれているもので、遺体を細かく切り刻んで犬に食べさせるというものである。最後の方法が最も一般的である。
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貧乏人はその辺をほっつき歩いている普通の野良犬を墓とするしかないが、高貴な死者は立派な儀式が執り行われる。どの僧院にもたくさんの犬がその目的のために飼われており、裕福なチベット人はその犬の腹に葬られるというわけである。
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ラマはすぐさま気の毒な獣の皮を剥ぎ、干し草を詰めた。ラマは自然史博物館の標本コレクションといった贅沢に身を任せるような人物では全くなかったので、我々ははじめひどく驚いた。でき上がったものには脚も頭もなかった。ここに至って我々は、結局ラマが作ろうとしていたのは単なる枕だったのかと思ったのである。
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彼が最初にしたことは干し草詰めのカルバを雌牛の前に置き、それから搾乳を始めた。母牛は最初大きく目を見開いて自分のかわいい赤ちゃんを見つめていたが、徐々に顔を近づけて匂いを嗅ぎ、三、四回くしゃみをしたかと思うと、ついに優しくそれを舐めはじめたのである。
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…彼は帯に吊るした革製の鞘から、大きな柄のついたナイフを引き抜いた。その刃は長年使ったせいで薄くなっており、刃渡りも狭くなっている。しばし親指でその切っ先を確めてから、羊の脇腹にずぶりと突き刺し、引き抜いた。刃は真っ赤に染まっており、羊は息絶えていた。羊は身じろぎもせずに一発で死んだのである。そして傷口からは一滴の血も滴り落ちてはいなかった。
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「われわれ韃靼人は漢人と同じやり方では殺さないんだ。彼らは喉を切るが、われわれは心臓をひと突きさ。われわれの方法なら家畜の苦しみも少なくてすむし、血もすべて体内に留まる」
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恐ろしい平口を後にして、老鴨堡の村に宿を取った。ここで我々は河交邑とは異なるタイプの暖房が用いられていた。この地では炕は乾燥馬糞ではなく、石炭の粉末をペーストにして煉瓦状に固めたものが使われていた。泥炭もこの目的のために使われている。
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生乳は漉さずに加熱し、一部はお茶を作るのに使ったり、バター作りに回す。一部はごく少量の、その目的のために残しておいた前日のジャンケットを混ぜて容器に注ぎ入れて置いておくと、翌朝にはジャンケットができあがっている。さほど甘くはないけれども、チベット人が非常に重んじているショのできあがりである。
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加熱した乳から取り出したクリームはあまり清潔とは言えない木製の攪乳器に入れて、われわれの昔ながらの攪乳器のように勢いよく攪拌する。それからバターを手で押しつぶしてミルクを取り除き、小さくて平らな丸形に成形するか、部分的に毛のついた皮袋に入れるか、または羊の胃袋の中に詰め込む。
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バターミルクは凝固させ、凝乳は乾燥させる。時には天日乾燥させて、チュルマができ上がる。お茶を沸かす時間がないときは、これは大麦の粉とバターと一緒に手で混ぜ合わせて塊にして食べる。
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現地の人々は、数百匹もいる群れの中から投げ縄を使って目当ての羊を捕まえるのが非常に巧みである。我々のよく知るチベット人は、我々が別の方法を特に希望するのでない限り、鼻の周りをきつく縛り、呼吸を出来なくするという方法で屠畜する。その後すぐさま喉を切るのだが、一連の行為は全てオンマニペメフンという祈りを唱えながら行われた。
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皮は丁寧に剥ぎ、原始的な方法で処理して、皮衣を作る材料とするか、または中国へと輸出される。
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ほとんど全ての部位を食べるのだが、内臓は裏返してざっと洗い、刻んだ肝臓、肺、心臓、腎臓を詰め、塩で味付けをしてツァンパも加える。うまくできたものはハギスに似ていなくもない。私は旅行中、心臓と腎臓を刻み、血を混ぜて鍋に入れて火にかけて煮込んだものを大変美味しそうに食べているチベット人を見かけたことがある。
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彼らは肉片を火で炙ることもある。燃料の種類にはこだわりはない。通例は肉はゆでて食べることが多く、最も脂の多い部分が最上と見なされていので、尻尾は敬意を表する印として客人に与えられる。
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骨はきれいにしゃぶったら、石の上で、あるいはナイフで鋭くたたき割るかして、髄を取り出して食べる。
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お茶を沸かすための鍋は、他に何もなければ乾燥糞を使ってきれいにする。そして適当な量の水を注ぎ、火にかけ、大量の茶葉を投入する。少量の塩、そしてもしあれば時々はソーダを加え、沸騰させる。お茶を濾したら、攪拌器に入れ、バターとツァンパを加えてよく攪拌する。見た目はチョコレートに似ているが、味は全く異なる。
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新鮮なヤクの血を飲むのは伝統的にはタカリ族だが、タマン族など他の民族も飲む。我々の聞いた話では、血は消化器系の病気を治すのに効果があるということだった。「血は慢性的な病気を抱えている人のためのものだ。胃炎には効くが、高血圧を患っている人にはよくない」(アイタ・バハドゥル・タカリ氏、ジョムソンの地区畜産局)