チベット高原万華鏡 生業文化の古今の記録を地図化する モザイク柄のヘッダ画像

チベット高原万華鏡テキストDB

「チベット高原万華鏡テキストDB」では、フィールド調査の記録や文献資料に記録された牧畜や農耕といった生業にかかわるテキストを引用し、日本語以外の場合は翻訳も添え、「搾乳と乳加工」「糞」「食文化」「服飾文化」などのカテゴリータグをつけて集積しています。地図上にはプロットできない情報を含め、民族誌や旅行記、史資料の中にバラバラに存在していた生業にかかわる情報を検索可能な形で統合して見える形にすることで、新たな研究を生みだすことを目指しています。

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「チベット高原万華鏡テキストDB」の使い方
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毛と皮革
ウールはドルポの家畜のもう一つの重要な生産物である。ウールは、服、ロープ、ブランケット、テントをつくるために、6, 7月に刈り取られる。ヤクの剛毛はテントとロープに編まれるが、やわらかい下毛はブランケットに使われる。羊とヤギはヤクよりも細かい繊維を供給する。そして、そのウールからまず服が作られる。
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毛と皮革
ウールを紡ぐことはいつも行う家事のひとつである。男も女も同様に、木製の手にもつ紡錘を使い、日がな、歩きながらも糸を紡ぐ。ドルポ女性はバックストラップ織機で座って、密で必需品である布を織る。彼らの織る手工芸はその質と耐久性で地域中で有名である。ドルポの人々は家庭収入をブランケットや腰帯を旅行者に売ることで得ている。
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宿営地と放牧地
ドルポでは、移牧というものが、定住村と標高の高い放牧地の間の移動によって特徴づけられている。この形態が、中央アジアの広域に広がる牧畜とチベット高原よりも根付いている。
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毛と皮革
社会的威信の階梯に於いてザンラの織り屋は最底辺、鍛冶屋のほんの少し上に位置する。彼らは貧しいが、勤勉だと皆がいう。威信の低さは、まず第1に彼らの貧しさに起因しているに違いない。彼らは時には糸を自家用に流用して、あまり質のよくない布地を織る、とインフォーマントはいうが、ことによれば、それも一因かもしれない。
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毛と皮革
ザンラの2人の織り屋、ソナム・ラブギェとタシ・チュンペルは、専業の職人ではない。もっとも、彼らの畑は狭い。彼らは農事がなかったり、忙しくない時に仕事をする。遍歴はしない。主要な作業ー機織りーは播種時とそのあとに行う。2人とも織機を持っている。もっとも、ザンラの農民の中には織機を持っている者が何人かいるが、彼らは用意した糸で布地を織ってもらうさい、自分の織機を自由に使わせる。
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毛と皮革
織工養成の特別の教育は行われていないが、織り屋の子供は小さい頃にもう簡単な補助作業に使われる。1日の労働時間はまちまちで、機織りに使う糸のストックを拠る。1日の通常の生産量は1ニャンブ、つまり幅が1エレ[約60cm]、長さが50エレの布地である。調べえた限りでは、ザンラで1軒の家が1年に織ってもらう布地は衣類1着分でしかない。
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毛と皮革
ザンラで1軒の家が1年に織ってもらう布地は衣類1着分でしかない。私は何軒もの家で貯蔵室に未使用の衣類が何着も眠っているのを見ることができたが、それらは娘の嫁資、それに富の象徴として退蔵している。
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毛と皮革
織り屋に対する支払いは1部は現金で、1部は天産物でなされる。天産物の支払い方は次の3種である。1) 織り屋は前払いとして半キロのバターをもらう。また、作業中、食事が出、最後の晩、仕事が終わった後、特に豪勢なチャン付きの食事に招待される。2) 作業完了後、ツァンパ1袋と少量のバターをもらう。作業中、食事は出ない。3)作業中、食事がで、完了時に糸を1玉もらう。
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毛と皮革
現金を報酬として織り屋は1日当たり7ルピーから10ルピー支給される。時には他に、1日につき自家用に杼のクダ1本分の糸ももらう。インフォーマントの何人かは、ラダックが外国人に開放される前はよかった、と不平をこぼした。当時は織り屋に1日当たり1ルピー支払うだけで済んだのである。
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毛と皮革
布地の素材としてザンラでは、ヤギ、羊、ロバ、ヤクの毛を用いる。ヤクは、自然に抜け落ちる冬の毛を刈り取る。長い剛毛を刈るのである。ロバからは太くて短い毛がえられる。これはヤクの毛といっしょに製織する。ヤクとロバの毛は春の初めに刈り込む。
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毛と皮革
羊の毛を用いると、ヤクとロバの毛を用いた時よりも目の詰んだ布地ができあがるので、その毛は主に衣類に使う。羊は比較的、寒さに強いから、ヤギと同様、夏の初めに毛を刈る。羊は比較的、寒さに弱いから、ヤギと同様、夏の初めに毛を刈る。その場合、まず背中の毛を、次いで数日後、腹の毛を刈る。
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毛と皮革
毛は、1枚の金属を用いて作ったハサミで刈る。このハサミの柄はバネが効いている。刈った毛は直ぐには洗いも打ちもせず、小さな籠にしまっておき、必要な時に必要なだけ取り出す。
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毛と皮革
梳毛には、釘が出た板に握りが付いた、バルチェと呼ばれる、低地産のブラシを用いる。この道具は、毛がほぐれ、かつ汚れがとれるように、目の細かい歯と粗い歯を配列してある。バルチェを使う場合、汚れをとりやすくするために、粘土を含んだ白い土を毛に塗りつける。この変わった汚れのとり方はザンスカル渓谷全土に見られる。(中略)そこはカルシャ近くの、山中の小さなほら穴である。土を砕く場合には、すきを用いる。
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毛と皮革
ザンラでは、伸縮性と耐久性をもたせる日常必需品――例えば、鞍具、靴、紐、穀物を運ぶ袋――はすべて皮で作る。しかし、製革の技術水準は高くない。それは、気候が乾燥しているので、革が腐って毛が抜けることがないように皮を処理する必要がないからだ、と私は考える。
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毛と皮革
汚れをとった羊の毛は集めて籠の中に戻す。ロバとヤクの毛は汚れをとらず、直ぐに撚って太い糸にし、次いでそれらを結び合わせて輪をつくる。男性は必要な時に必要なだけ、この輪に前腕を通して糸をつまみ出す(太い糸は常に男性が製織する)。
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毛と皮革
女性はよくヤギの毛皮をストールにするが、この防寒衣料は皮を乾かし、両手で打って十分にしなやかにして作る。
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毛と皮革
女性が用いる弾み車は常に紡ぎ鉢とともに用いる。弾み車はパン (pang)、鉢はバンキシャという。鉢はいくつかの油脂作物の絞りかすで作る。その形は切頭円錐形、ぐるりには若干、装飾が施してある。鉢の真中には半休状の穴があり、そこに弾み車を立て、一方の手でそれを回し、もう一方の手で糸を引く。
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毛と皮革
ヤクの皮は粗い不純物を取り除いたあと、きれいにし、家の屋根の上で日に干す。数日後、毛をむしり取り、男性用弾み車に巻いた糸に加える。或る程度乾いたら、皮をくるくる巻いて、いつも腹をすかしている犬が近付けないように天井の梁に掛ける。革が必要になると、その一部を切り取り、水に浸して柔らかくする。革は湿っている間は加工しやすい。乾くと堅くなり、かなり長時間使わないとしなやかにならない。
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毛と皮革
ヤギと羊の皮の時には、腹壁を切開することなく、全部ひき剝がす。その場合、喉を切り、手で筋肉組織と皮の間を広げていき、皮を少し指でつまんで「頭の方に引張って剥がす」。このようにして剥いだ皮はワラを詰めて乾かす。
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毛と皮革
どの主婦も糸を巻いた弾み車をかなりたくさん春までストックしておき、春以降に、天井と壁に取り付けた糸掛けを用いて糸に撚りをかける。その場合、女性は壁に固定した棒に差し込んだ横棒に等間隔に並んでいる4つの駒に糸を通し、床に座って、弾み車から糸をはずしながら撚りをかけていく。
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